P.オースター/柴田元幸(訳)『ブルックリン・フォリーズ』新潮社

ネタバレ注意。
オースターの新作をお借りしましたが、コレ、すごくよかったですね。
ニューヨークはブルックリンを舞台に、熟年離婚を経て故郷の街へと一人帰って来た主人公・ネイサンと、そこで再会する研究職をドロップアウトした甥・トムを中心とした、人々の交流の記録。
柴田元幸の絶対的な名訳はいつも通りのことですが、内容や展開の観点から、今まで読んだオースター作品の中で、最も読み易い作品でした。ユーモアはシモ含めてたっぷり*1、生き生きとしたキャラクタたちのアクティブな行動と言動が物語をぐんぐん推進し、それぞれが種類の異なるヒューマニティの発露に、胸が熱くなる場面も数多い。
しかしただ単にヌルい馴れ合いの小説ではなく、一方でオースターらしく悲喜劇のデタラメさ、苛烈さはショッキングでもあるし、人種や階層、セクシャル・マイノリティ、カルトや宗教対立といった現代的な社会性をあからさまに散りばめつつ、そしてそれがラストのある「事実」へと繋がっていく、いわば「現代アメリカ史」を批判的に描こうという試みは、ラストシーンの静謐かつ鮮烈な美しさと共に、少なくとも日本の読者である僕には衝撃的に届きました。
むしろアメリカでこの小説はどう受け止められているのだろう。主人公たちに託されたような姿勢をリベラル気取りと蔑むような人たちに、この作品が殺傷力のある匕首のようであればいいがと思う。
評価はB+。

ブルックリン・フォリーズ

ブルックリン・フォリーズ

*1:《こないだ見たとき、まだいちおうあった》(124p)、《(名前削除)》(244pほか)あたり最高。