ネタバレ一応注意。
永井するみも残り僅か、第四長編は、ピアニストの婚約者が誘拐され、ピアニストは自身のコンサートで、ある「因縁の曲」を「完璧に弾く」ことを犯人に要求される…という、音楽×誘拐ミステリ。
さすが東京芸大出身らしく、芸大や音楽業界のディテールも、専門的な要素・蘊蓄もしっかり書けているし、誘拐ミステリとしても犯人の意図がなかなか見えず、オフビート感が演出できている。
しかしこの小説の個人的な見所は人物描写、出てくる奴出てくる奴がすべて種類の異なるエゴイストで、そいつらが互いに干渉し、あるいは干渉を拒む、その徹底して描かれる人間模様の「濃さ」でありました。
主人公・紫とは絶対一緒に仕事したくないし、また三池の俗物っぷりも笑えるが、ただ眼目は界や栄世、「持てる者」たちの、傲慢を通り越して超越的な「無神経さ」にあるのだろうと思う。ぱっと見さしていいものとは思えなかったタイトルが、物語が進むにつれて重みを増していき、ラストの余韻においてはこれ以外にありえないものとも思われる、その含意は、こうしてブログにさして内容もない「辛口書評」を記している身にも、印象の深いものでありました。
評価はB。
- 作者: 永井するみ
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2005/06/30
- メディア: 文庫
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