綾辻行人『奇面館の殺人』講談社ノベルス

ネタバレ注意。
館シリーズ」、第九作。
非常に楽しみにしていて、新刊買ってすぐ読んだのですが…うーん、という感じ。
思い出は美化される、というのはあるし、そもそも『時計館』あるいは『霧越邸』なんかの大作とは志向性が違うのは理解しているけど、かつての「館シリーズ」の大きな魅力として感じていた「静謐の詩情」とでもいうべきものが感じられないのは残念なところでした。そのいわば「幻想美」の欠如は、単に作品の雰囲気の問題だけではなく、作品の中枢にある、ある「奇跡のような出来事」*1の説得力やインパクトも奪っているように思う。本格としての理知(あるいは稚気)と、美しい幻想性の両軸をもって俺は綾辻を最も敬愛する作家と位置付けていたのですが。
理知、ということで言えば、犯人が単なるダメ人間なのも残念なところ。もっと胸中に哀しみを抱えて、狂的とも言える知性において殺人を重ねていただきたいのです…。パズラーとして「そういうもの」として組み立てられていることは確かだけど、場当たり的な犯行と、それ故に必然的に些末に感じられるロジックや伏線そして真相、俺が「館シリーズ」に求めているのはこういう軽やかさやオフビートではない。
まあ、一編の「カジュアルな本格(パズラー)」として愉しめることは確かだし、今『迷路館』や『黒猫館』読んだら、同じように感じないという保証はないんだけどさ。
評価はC+。

奇面館の殺人 (講談社ノベルス)

奇面館の殺人 (講談社ノベルス)

*1:この条件に見合う奴、現実的には一人もいねーと思う。