瀬名秀明『BRAIN VALLEY』角川文庫

ネタバレ注意。
ザ・サイエンス・フィクション
山深い研究所を舞台に、脳や遺伝子の科学に基づいて、UFOやアブダクション臨死体験を合理において語り、しかしその果てに逆転して顕れるのは「神」の「奇蹟」。そのヴィジョンがSF的想像力のメイン。
なるほど科学的な蘊蓄は盛り沢山、読むべき人が読めば正確でも刺激的でも啓蒙的でもあるのでしょうが、少なくとも僕が読む限りにおいては、それらは小説としての面白さに何一つ貢献していないと思いました。キャラクタの造形も、オカルティックなイメージあるいはSF的なヴィジョンも、それらに基づくドラマの造りも、すべてが貧相で、広げた風呂敷に見合うものを提示できていないと思います。
僕にとって一番致命的なのはキャラクタ造形の部分で、登場人物の九割が科学者でありながら、たとえば森博嗣あたりとは比べるまでもなく、「理系の人々」の人格がまったくつまらない、てのは前から言ってる通り。『パラサイト・イヴ』でも『ハル』でも。この作品の場合、主人公からして魅力ゼロだし、加賀と広沢(とんだチンポ野郎)は一つの狂気を分け合ったような薄さだし、「ドリトル先生」に憧れて、とか平気で言っちゃう霊長類研究者・秦野ちゃんとかもマジに寒い。他にも意味不明な奴が多くて、純真少年・ジェイ(こいつだけ一般人)の正義感暴走とか、メアリーの短慮とか、北川のアジテーションの無理矢理感とか、ストーリィに踊らされて意味不明・ご都合主義な部分が目に余る。鏡子さんも神秘性まったく演出できていませんしね。
上下巻約900頁にわたる、科学的な虚仮おどしです。
評価はC。

BRAIN VALLEY〈上〉 (角川文庫)

BRAIN VALLEY〈上〉 (角川文庫)

BRAIN VALLEY〈下〉 (角川文庫)

BRAIN VALLEY〈下〉 (角川文庫)