青山真治『月の砂漠』角川文庫

ネタバレ注意。
俺、青山真治の映画ってあんまり面白いと思ったことないんだよねーとか思いながら漫然と読んでいました。
…あんまりでした。
饒舌な文章はなんか村上龍みたい。男娼とかITベンチャーの経営者とか、設定もなんだかそれっぽい。でも物語じたいは視点を変えつつ、時に文学的に色気づいた表現を挟みつつ、しかしどこかヌルみを帯びて進む。そしてラスト、「え、まさかの元サヤ!?」という感じ。説明不足だし、予定調和…と言うのもなんだか違う気がするのが厄介なところだが。でも資本主義否定の家族回帰なんて今の時代にやるのは、予定調和という枠には収まらないと思う。逆に。
まあしかし、ところどころで光るシーンはあるし、『長いお別れ』や『ペット・サウンズ』などの小ネタの使い方もセンスよく、小説として一定のレベルにはあると思うが(今に始まったことじゃないにしても偉そう)。
好きだったシーン、長くなるけど引用。

 子供の頃から好きだった不忍池を見渡す、背の高いホテルに前々から目をつけていた。最上階のスイートに部屋を取った。カアイの下校時間までの間、冷蔵庫にあったハイネケンを呑んでいると、部屋のチャイムが鳴り、アキラの二十五歳から二十九歳までが揃って、三十歳のアキラを訪ねてきた。ごめんね、とアキラは素直に謝った。二十五歳はまだ快活だったが、二十六歳は怒りっぽく、二十七歳は暗く無口で、二十八歳は子供のように微笑みながらぼんやりと遠い目をし、二十九歳は疲弊しきってソファに寝転んだ。意外にも最初に二十七歳が重い口を開いて、私たちお別れを言いに来たの、と云った。もう会えないと思うの。アキラは声が出なかった。一口ちょうだい、と二十九歳が、アキラのハイネケンに手を伸ばす。あんまり呑み過ぎないでよね、と今度は二十五歳が云った。私たち、それなりにあんたのこと好きだったんだからさあ。二十六歳は怒った口調で、いったいどこが気に食わなかったのよ、いい家住んで、お金もあったし、カアイだって健康で賢くて可愛くて……テレビのコマーシャルでも云ってたじゃないの、亭主元気で留守がいいって、あんただいたい贅沢なのよ。二十八歳は、ただ微笑んでいた。
(51p)

…疲れた。途中からラストのセンテンスだけでよかったと思った。
評価はC。

月の砂漠 (角川文庫)

月の砂漠 (角川文庫)