伊藤計劃『虐殺器官』ハヤカワ文庫JA

ネタバレ注意。
貸していただきました。
うん、面白かったですよ。「完成度」という観点から優れた達成であると思います。
文章の、あるいは登場人物の思考のクオリティであるとか、SFとしてのディテールといった部分もそうなのですが、9.11以降の世界情勢を念頭に組まれた近未来の世界観、その中に息づくストーリィ・プロットにおける達成が。たとえば「虐殺の生成文法」という中心的なアイデアは、チョムスキーの存在に素敵にアイロニカルだし、最終的に明かされるジョン・ポールの意図も、優れて批評的なカタルシスを備えていると思います。主題にもガジェットにも、作者の問題意識がスリリングに顔を出していて、それが読み手に不断に問いを発し続けているような、非常にクリティカルな作品です。
こういうのを書く作家なら、きっと書きたいことは山ほどあっただろうし、時代と共に歩むべき作家であったのだろうと自然に思われるのです。
逝去は、それは惜しまれますよね。残念でした。
評価はB。

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)