藤田宜永『壁画修復師』新潮文庫

ネタバレ一応注意。
短編集。
タイトル通り、主人公はフレスコ画の日本人修復師。仕事に赴くフランスの各地、行く先々で巡り会う人間ドラマを描いたシリーズ。
文章もドラマの作りも、非常に端正でバランスが取れている。読んでいて心地いい小説でした。フランスの風物も魅力的に描かれていて、今度行く予定があるので興味深かったです。
ただ、あまりにも端正すぎ、また主人公が客観的すぎて、話が漫然としてしまったような部分も見受けられる。「アベ」=「牧師」という暗喩を含んだ名付けは、この小説において、最初から主人公を傍観者の立場に置くことを宣言してもいるが、それならせっかくの「壁画」という要素、もっと直接的にプロットに絡めて、アクセントにして欲しかったというのは贅沢な要求だろうか。
その意味で、主人公自身の人生にも深く関わった「白い河」が、ダイナミズムも兼備してベストだった。
評価はB−。

壁画修復師 (新潮文庫)

壁画修復師 (新潮文庫)