森見登美彦『きつねのはなし』新潮文庫

ネタバレ注意。
四話収録の短編集。
舞台はもちろん共通して京都なのだけど、その他にも登場人物やガジェットは一部共通していて、関連は薄いながらも連作の趣ではある。
この作者を読む時の大きな楽しみであろうユーモアやキュートさといった部分は影を潜め、「奇妙な味」の感覚や、よりストレートな情緒性に寄ったテイストになっている。そのあたりがいまいち人気のない要因でもあろうし俺もいささか物足りなかったのだけど、これまでと異なるテイストで読ませる部分もまた少なくない。
表題作は久々に小説読んで「怖い」と感じたし、「果実の中の龍」は青春小説としても哀感を湛えて優れたものだし、「魔」は登場人物の心地いい距離感の在り方が結末のツイストに効果的で、「水神」は完全に短編向きではない血縁のクロニクルと、そこに絡んでくる怪異の描き方が異様な迫力を醸し出す怪編。
とりあえずの総括で恐縮ですが、作家としての懐の深さは存分に味わえる作品集です。
評価はB。

きつねのはなし (新潮文庫)

きつねのはなし (新潮文庫)