ネタバレ注意。
神大のマネージャが誘拐されたり、電波ジャックされたり、いろんな意味で「箱根駅伝」が「強奪」されるサスペンス小説です。
こういう娯楽性に徹したタイプの小説に、文章とか人物造形といった部分を云々するのは無粋だし、意味のあることだとも思わないのだけど、それでも、キャラクタの誰ひとりとして何一つ魅力がなく、文章においてもただ一節も惹かれる部分がないというのは、さすがに辛かった。平板で空疎。マジに何一つ引っかかるポイントがないんですよ。
そしてそういう未熟は、根幹のサスペンスからも緊迫感を奪っているように感じられた。事件に向き合うキャラクタたちが背負っているもの、その重みを感じられないから、各人がどういう想いや考えで行動し、焦燥にとらわれているのかも伝わってこない。「犯人の思惑が分からない」、その謎めいた展開が魅力、みたいなことが解説でも書いてあったけど、むしろ分かりやすいし、逆だろう。分からないのは「こっち側」、読者の視線を託されていながら、それをまったく引っ張れない関係者の方々の心理。
テレビ中継における「電波」の専門知識が、結構な紙幅で描かれ、さらにミステリとしての結構でもメインを担っているけど、まあ「よく調べたね」ってぐらいの感興。そしてそれにも関係するんだけど、俺はこのスポーツイベント中継*1によって体現されるところの、日本テレビという放送局、その気持ち悪く湿っぽいマッチョイズムと偽善性が大嫌いなのです。
だからどうしたって、好意的な感想にはなりようがなかったのです。読む前から分かっていたのです。すいません。
評価はC−。
- 作者: 安東能明
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/11/28
- メディア: 文庫
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