由良三郎『象牙の塔の殺意』新潮文庫

ネタバレ一応注意。
読んでる間、なんとも不思議な感覚の喚起される小説だった。「この人、一体なにが書きたいんだろう」という不思議と、「なんで俺はこんなの読んでるんだろう」という輪をかけた不思議、というか不条理。
不思議だなあ。
物語はうだつのあがらないサラリーマン二人が、偶然知り合った元大学教授から出世の手ほどきを受け、のしあがっていくと同時に、その「先生」がかつて失脚に追い込まれた「陰謀」と、会社の「難局」をも解決してしまう、という構成…なのです、が。
リーダビリティはいたってぎこちないものだし、キャラクタもまったく垢抜けなくて平板だし、それ以前に話にまったく興味が持てない。あとがきで作者が述べている、アカデミズムの世界での生き馬の目抜きっぷりとか、そういうニュースが新鮮味を持っていた時代であればまだしも、現代読むに耐える作品ではないな、というのが正直なところでした。戦後すぐぐらいの作品だと思ってたら、この文庫の初版は平成になってから。ちょっとびっくり。
あとがきで述べているのは自身医学者である作家の周辺事情だけでなく、メイン・プロットの狙いまでご丁寧に、なのだけれど。それはちょっとやめておかれた方が…。
評価はC−。

象牙の塔の殺意 (新潮文庫)

象牙の塔の殺意 (新潮文庫)