坂東眞砂子『狗神』角川文庫

ネタバレ注意。
四国の山村、「狗神」の因習をめぐる土俗伝奇ホラー。
これはよかった。読み易さが損なわれないままに濃密で、文章・ストーリィテリング両面でのバランス感覚、リーダビリティの高さを感じました。
山村の風物はもちろん、その共同体としての閉鎖性や異分子に対する狷介さ、血縁や宿縁という厄介な軛、閉塞感の中で育まれる情や業の深さ強さ、因習や土俗信仰という異形の論理と、それに拘泥するが故に陥っていく狂的な蛮性。俺なんかは始終ニヤニヤしてしまう、そうした「厭」なものをまざまざと描いて、濃い小説でありました。
そうしたすべて、さらには物語の中心のある「秘密」をカオティックに内包して展開するクライマックス、山火事のシーンは、圧倒的なカタストロフィ。日本の土俗に根差した恐怖小説としては、その最良の成果のひとつであろうと思われます。
ただまあ、超自然のホラー的存在がまったく怖くないのは残念なところ。それが眼目にないのも分かるけど、最後まではっきり描かない方が、それで因習の根深さや集団差別・集団狂気を押し出した方が綺麗じゃないかと思うけど、それは所詮ミステリファンの、理がかった戯言ということで。
評価はB+。

狗神 (角川文庫)

狗神 (角川文庫)