THA BLUE HERB 『LIFE STORY』

規格外の表現に打ちのめされた時、その感覚を言葉で伝えようとすることは困難だ。
だけど、少しずつやってみようと思うんだ。
3rdアルバムの歌詞カードは黒地に白で印刷されている。冒頭のBOSSの肖像以外は、写真やイメージが介在しない、純粋な言葉の羅列だ。
CDを回しながら、歌詞カードを読む。黒地に白。哀愁を帯びたシンプルなトラックと、囁くような中音域の声を耳に、目はその「完璧な」リリックを辿る。すると暗闇の黒の中に、自分の感覚器官と彼らの音楽、彼らの言葉だけが白として存在しているような感覚に陥る。そしてその穏やかな闇…このアルバムは彼らの今までの作品中でも最も柔らかいフォルムを持った作品だろう…を抜けた先には、今までと異なった世界が広がっている…、気恥ずかしい表現だが、「世界観が変わる」ような、そうした幻想を信じさせてくれるような、研ぎ澄まされた「優しさ」の音楽。もはやこれを規定する枠自体が存在しないが、それでもこの作品ははっきりと規格外だ。
この作品のハイライトは、「WE MUST LEARN」から「TENDERLY」の流れにある。「WE MUST LEARN」にある、冴え渡った哀しみの色。「TENDERLY」に宿った、シンプルながらも気宇壮大な肯定性。冷徹に刻まれる言葉と無駄のない音の力で、かつて誰にも表現されなかった、風景と、感覚と、メッセージを、この二曲は完璧に表現している。
そして最も力強い声と音で鳴らされる「MOTIVATION」で、アルバムは閉じられる。常に一歩前にある現在地に、足を踏み出し続ける不断の行為の、その背中を押すような力強い言葉が、最後に届けられる。

一匹のMC 昨日より若く 昨日より今日 今日よりは明日
生まれ変わる 次なるハードルは高く 追う者は追われる者に勝る
(「MOTIVATION」)

かつて見知った、必殺のセンテンス。規格外の表現に到達しながらも、その最後に語られるこの力強い言葉は、この表現がそれを聴くものに寄り添おうとする決意のようにも聴こえた。

LIFE STORY

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