森絵都『いつかパラソルの下で』角川書店

ネタバレ一応注意。
生前の父の(主に性的な)秘密、そしてそのルーツを辿っていくことにより、再生していく「きょうだい」と「家族」を描いた小説。
…なんてまとめてみるとなんだかジメっとした湿度を感じさせそうだけど、実際はこの作家らしい、瑞々しくて爽やかな小説だ。成人女性の視点設定やセクシャルな描写も新鮮ではあるけれど、美点はまったく失われていない。
序盤、デンパ入った女が出てくる謎の発端から物凄く面白くて、「もうこりゃA決定だな。森絵都だし」と思ってたけど、佐渡に渡ったあたりからどうも自分テンション的に漸減の傾向。序盤で示される「探求」の物語が後半では「再生」に焦点が移って放棄されるわけで、それは小説のプロットとして間違いではなく、充分に感動的なものではあるが、個人的な生理についてはどうしようもないのでした。
「いつかパラソルの下で」なんてことは、俺はまったく思わないのだけれど、取り返しがつかなくなって初めて、それは思うことなのだろうか。
作品の評価はB+。

いつかパラソルの下で

いつかパラソルの下で