舞城王太郎『されど私の可愛い檸檬』講談社文庫

ネタバレ注意。

三編収録の短編集。

「トロフィーワイフ」はかなり怖ろしい心理小説。続く「ドナドナ不要論」はタイトルも書き出し…《『ドナドナ』など要らんということだ。》(104p)…も椋子の叔母の挿話の書きっぷりも最高で期待したんだけど、その後に描かれるのは輪をかけて怖ろしい事態であって、胸が黒く塗りつぶされるような思いがした。

「恥こそが日本人の強みだったのにね。それを一部でも失い始めるとゆっくりと確実に総崩れだよ。恥を知ってる方が負ける世界へと、オセロみたいに少しずつひっくり返されてるところなんだから」
(「ドナドナ不要論」、177p)

なんて台詞のあたりは痛快に読めていたし、義母の描き方とかほんとうまいよなあと思うけども。

そして表題作も、よくこんなもの書けるなあと感じ入りつつ、感覚としてはやっぱりしんどい。『私はあなたの瞳の林檎』ほどのかわいげはまったくなくて、生きることの困難がグサグサと突き刺さってくる。

日本文学史上にまったく独自の地位を占めた、オリジナルな表現。

評価はC+。