七河迦南『アルバトロスは羽ばたかない』創元推理文庫

ネタバレ注意。

学園の四季の移ろいと共に起こる日常の謎と、それを貫く「文化祭での墜落事件」を描く、七海学園シリーズの第二連作長編。

期待に違わぬ大傑作でした。予想もしていなかったどんでん返しに暫くの時間呆然としてしまい、そこからひたひたと押し寄せるエモーショナルな大渦に飲み込まれ、ラストまで一気呵成、感涙に咽びながら読むことになりました。

「×××と××と××が××する」という超絶技巧はミステリ史に名を残すものだし、それがヒューマン・ドラマとしての感動と分かち難く結びついていて、それがお互いの価値をどこまでも高め合っている、この達成は他に例を見ない…あえて言うなら『イニシエーション・ラブ』の逆ベクトル…もので、ここまでスレたミステリ読みに感動を与えてくれたことに、何よりの感謝とリスペクトを捧げたいです。良いもの読ませてもらいました。

連作長編を構成するそれぞれの章にも見所は多く、春の章のホワイダニット前作の正統を受け継ぐ美点を示しているし、夏の章はその「性別を超えた」友情に胸をうたれながら、人間消失のスケールの大きい謎にワクワクし、ウランちゃんの愛らしさに泣き笑いできる。晩秋の章のシチュエーション・クライムコメディぶりも心地いい清涼。児童養護施設を取り巻く人々の様々な思いを丁寧に掬い取り、感動的なドラマに織り上げながら、この巧緻な企みに筋を通した手腕には脱帽せざるを得ません。

その真摯な「物語る」姿勢を表してくれる、春菜のモノローグを引いてみます。

瞭。あなたに話したいよ。八歳のわたし、十四歳のわたし、そして十七歳のわたしがそれぞれそう言っている。でもあなたは誰の言葉だったら聞いてくれるのだろうか。
(初秋の章、229p)

読後はいっそう、引用してるだけで泣けてくる最高のモノローグですね…題材に対する真摯さと覚悟が湧き出てるわ。

繰り返しになるけど、二十年以上本格ミステリという文化に耽溺してきて、まだこんな衝撃と感動を受け取れたことが嬉しいです。これから読む人はぜひ、前作『七つの海を照らす星』からどうぞ。感動が100倍になること請け合い。

評価はA。

アルバトロスは羽ばたかない (創元推理文庫)

アルバトロスは羽ばたかない (創元推理文庫)