深緑野分『戦場のコックたち』創元推理文庫

ネタバレ注意。

ノルマンディー上陸作戦を起点とする第二次大戦欧州戦線と、そこに加わる米軍「特技兵」=コック、ティムの周囲に起こるいくつかの謎と事件を描く連作長編。

評判のよい作家、作品だったので期待して読んだけど、ちょっとハードル上げすぎたかも…。杉江松恋の解説にも述べられているけど、「戦場のコック」という独自性の「お仕事小説」として期待すると、その硬派な戦記小説ぶりと、容赦なく襲い来る悲劇に打ちのめされるかも。

それは心意気を買うべき正しい姿勢だと思うのだけど、個人的にはミステリと戦記小説の食い合わせというものを考えさせられる仕上がりではあった。ミステリとしては明晰さが物足りなく、冗長の嫌いがあるし、戦記小説としては細部の描写が伏線と混線してしまって、せっかく描写を重ねても臨場感・迫力が立ち上がってこない印象があった。この大部において、ラストが予定調和的に感じられてしまうのも残念なところ。

一方で、名探偵を据えた本格ミステリというジャンル小説でありながら、登場人物みな弱さを抱え、戦場におけるヒロイズムが捨象されているのは、戦記小説に向き合う誠実な態度だと思う。そこが好きだった。

評価はB-。

戦場のコックたち (創元推理文庫)

戦場のコックたち (創元推理文庫)