N.ホーンビィ/森田義信(訳)『ぼくのプレミア・ライフ』新潮文庫

ネタバレ特になし。
熱狂的アーセナルサポである作家が、少年期からのサポータ・ライフを振り返る、フットボール・エッセィ。

その後女の人たちと恋に落ちたのと同じやり方で、ぼくはフットボールと恋に落ちた。突然、説明もできぬまま、判断力を失った。恋が痛みや混乱をもたらすなんて、考えもしなかった。
(15p)

「プレミア・ライフ」とかいう邦題だけど、1968〜1992年、「プレミア」以前のイングランドが舞台。退屈なサッカーをするアーセナル、パッとしないチェルシー、「弱い方の」マンチェスター・シティフーリガンが暴れ回り、ヒルズボロヘイゼルの悲劇も生々しい、「古き悪しき」フットボールの記憶。
当たり前だけど全くノスタルジィを感じないし、安全安心なJリーグが誇らしいばかりだけど、サポータのマインドとして通じる部分があって嬉しくなるし、身につまされたり微笑ましかったり愛らしかったりのシーンも多い。FAカップで下部リーグに負けてその場から逃走するあたりは笑い泣けた。
その一方で、ヘイゼルの悲劇を語学学校のイタリア人生徒たちと見るシーンなんて、哀切に胸が絞めつけられた。決して過去であるばかりの話ではないし、過ちが正されているのか不断に問い続けられなければならない。けれどフットボールの人々はそれができるし、共にフットボールを愛する我々は、正しい道の途上にあると信じられる本。
これだけ世界中の人々の感情をスイングさせ続けているのだから、なんせ偉大だわ、フットボールってのは。
評価はC+。

ぼくのプレミア・ライフ (新潮文庫)

ぼくのプレミア・ライフ (新潮文庫)