樋口有介『林檎の木の道』中公文庫

ネタバレ注意。
モトカノの「自殺」の謎を主人公の高校生が解き明かす、樋口十八番の青春ミステリ。『ぼくと、ぼくらの夏』とか『風少女』とか、同じようなこと既にやってるじゃねーかと思いつつも相変わらず面白い、そのレベルでの十八番。
このテの青春ミステリの定番として老成しまくった主人公の造形が若干鼻につく。バイクの伏線とか一部に大胆さは見受けられるが、基本的には事件の真相にも驚きはない。というか青春ミステリ的には王道の意外性。
しかしこの、「夏休み」を描出する筆…風物にしろ懶惰の雰囲気にしろ…は冴えに冴え、青春ミステリとして作品の「雰囲気」がしっかり構築されてるのはさすが。グダった夏休みに紛れ込んだ非日常を描いて、作品そのものはまったくグダることがない、しかも結構な分量の長編、これはまさに小説巧者の仕事です。
評価はB。

林檎の木の道 (中公文庫)

林檎の木の道 (中公文庫)