長沢樹『消失グラデーション』角川書店

ネタバレ注意。
横溝正史ミステリ大賞受賞の青春ミステリ。年末のランキングでいい感じのところを見かけていたら、会社に転がってたので読んでみました。
うん、これはいい「学園青春ミステリ」です。キャラクタたちの煩悶やそれに連なる行動は、ライトノベル的な狂騒の虚しさの半歩手前で、しかし適度にエクストリームで頭でっかちで、「僕らの時代」の青春ミステリとして、正しい「あやうさ」の中にある。『密閉教室』や『ヴィーナスの命題』や、あるいは『天帝のはしたなき果実』が体現していたような、ある種の青春ミステリだけが顕わすことのできる、美しい「あやうさ」。
そしてこの小説の場合、その「あやうさ」は作品の核の部分においてきわめて本質的だ。反復されるセックスとジェンダ、その「グラデーション」に関する主題、あるキャラクタの隠された「秘密」と叙述トリック。やがて「消失」にまつわるきわめてシンプルなトリックに収斂していくその「あやうさ」は、紛れもなく、思春期の身体と自意識そのものであるから。青春ミステリという小説形式の、ある意味では最もシンプルでラディカルな体現である。
個人的な負け惜しみを述べさせてもらえば、僕は樋口さんの性別誤認までは分かっていたのです。でもそれがミスディレクションになっていて、さらにはトリックもあんなシンプルにキメてくるとは、なかなか野心的な本格ぶりでした。
『SCHOOLGIRL COMPLEX』使った表紙も、最初は狙い過ぎだと思っていたけど、作品読んで改めて見ると、これ以外ないというまでにハマっている。
うん、いい仕事でした。
評価はB+。

消失グラデーション

消失グラデーション