立松和平『光の雨』新潮文庫

ネタバレ一応注意。
連合赤軍山岳ベース事件の小説的再現。坂口弘をモデルにした老いた語り手が、「特赦」により釈放され、娑婆で出会った浪人生のカップルに、死の床で事件を語り伝える、という構成。
同時代に生き、自身学生運動の経験のある作者だけあって、力の入った大作ではある。「強奪された銃」のそれをまで含め、様々な当事者たちの視点、あるいは裁判の供述記録など様々な資料を駆使して描かれる「事件」は細密で、迫力がある。
興味深く、また没入して読みはしたが、しかし物足りない部分もあり。聴き手の二人、近未来の浪人生カップルの設定、浮わついた青春・恋愛描写の必然性は疑問。「対比」的な効果を狙ったものとすれば、構図が単純すぎるように思う。

あとは「事件」の中心人物、倉重鉄太郎(=森恒夫)と上杉和枝(=永田洋子)の造形。彼らが朗々と語るお題目の空疎や、他者への狷介・拒絶の冷厳は笑ってしまうぐらいによく描けているけど、もっと黒かったり深かったり、パブリック・イメージを越える新たなものは提示されておらず、それに起因してラストもあっけなく感じる。
各個人のパーソナリティに「事件」を帰着させない、それはひとつの「総括」であるとは思うし支持できるものでもあるけど、少なくとも「小説」としては物足りないように感じた。
評価はC+。

光の雨 (新潮文庫)

光の雨 (新潮文庫)