ネタバレ注意。
『本ミス2012』堂々一位、本格ミステリとファンタジィの幸福なマリアージュ。
あとがきでも西澤保彦や山口雅也の名前を出しているように、「特殊状況本格」の王道を行かんとする意気の嬉しい力作です。西澤にしろ山口にしろ、そしてこの作品での米澤にしろ、小説としての基礎体力、リーダビリティと世界観構築の手腕が試されるこのテの作品に挑戦し、しかもそのハードルを易々と乗り越えている、その安心感と心強さ。
本格としての淡麗なロジックが、心踊る活劇ファンタジィにごくごく自然に埋め込まれている、そのナチュラルさにおいては東川篤哉のスラップスティック本格を想起させもします。文句なく楽しく、歴史小説的な興趣も備えたソロン諸島の物語、エンマ筆頭に傭兵が全員かっこいいのも素晴らしい。古典部では懐疑的だったキャラクタ小説家としての手腕が、こんなところで十全に発揮されるとは。
しかし、活劇と謎の吸引力に引っ張られるままぐいぐい読んでしまって、終わって一息ついてから思ったけど、「真相」におけるファルクとエドリックの絡みは若干弱いような。これやるならエドリックはもっと絡ませたらよかったよね、もったいない。「本ミス」一位は本格部分だけの評価ではないなーと思いつつ、まあでも面白いからいいんだけどさ。
評価はB+。
- 作者: 米澤穂信
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2010/11/27
- メディア: 単行本
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