永井するみ『樹縛』新潮文庫

ネタバレ注意。
林業/建材/建築の業界を舞台にしたミステリ。
デビュー作からの「第一次産業」ネタの流れにある作品。新潮ミステリー倶楽部賞が出自だが、いかにも乱歩賞的で俺の嫌いな、専門知識/業界ネタが散りばめてあるのだけど、結局はセンスとリーダビリティなんだろうね、コレは面白かったです。
蘊蓄はもちろん、キャラクタ造形の部分でも「理系」要素はしっかり馴染みよく取り入れられていて、北大農学部卒の面目躍如を見せられるし、「文芸」的な「オトナの恋愛」要素も、作品のそこかしこにほどよい陰りを添えて印象的。両端の美質を兼備して、充実して完成度の高い、エンタテインメント・ミステリです。
そうした構築の中で、女性キャラクタの魅力・インパクトが強いのが特に貴重なことだと思いました。特にエピローグ前、直里のモノローグ、抜群にせつなくて素敵です。一方男性キャラはやや押され気味…沢くんはなかなかかっこよかったけどね。
評価はB。

樹縛 (新潮文庫)

樹縛 (新潮文庫)