永瀬隼介『サイレント・ボーダー』文春文庫

ネタバレ注意。
児童虐待×アンファン・テリブルもののクライム・ノヴェル。
虐待だけじゃなくて、イジメだの家庭内暴力だの、様々なネタをぶち込んで、視点も様々に変えて展開されますが、この作品においてその多彩な要素は豊かさではなく、単に水増し的な肥大化と小説としての焦点の曖昧さだけを呼んでいるように思えます。
「地獄」として描かれる虐待の連鎖や家庭内暴力の情景もありきたりでまったくショッキングじゃないし*1、そもそも南田くんと工藤和美さんのパートはいるかね? こんな「トップ屋版ミザリー」みたいなネタ。精神医学やジャーナリズムの蘊蓄も見事に浮いてて、作中『冷血』とかに言及してるのも若干イタい感じ…そんな思い入れとか、知らんよ。
まあそもそも人物造形にしてもストーリィにしても安直で深みがないから、いくらスリムにしてもいいものにはならんかっただろうけどね。なぜかアクション小説化してからのナルシスティックなラストも、正直に言って気持ち悪かったです。
評価はC。

サイレント・ボーダー (文春文庫)

サイレント・ボーダー (文春文庫)

*1:しかもあっさり解決されるし。