辻仁成『ニュートンの林檎』集英社文庫

ネタバレ特になし。
神秘的な本である。まったく箸にも棒にも引っ掛からない、幼稚の極みのような小説であると思われるのに、これが出版され、文庫化され、さらにこの後に書いた小説で、国内で最も権威のある純文学の賞を獲ったというのだから、俺程度の読者には計り知れない、なにか神秘としか言いようのない力があるのだろう。この小説は俺にとって、「村上春樹を初めて読んだ中学生が影響されて、四字熟語を調べながら、性と生と死について一生懸命想像を巡らせました」ぐらいのものだったけど。
まとまりを欠いているけどナルシシズムだけはたっぷり含んだ文章、見事に支離滅裂でありながら、同時に安直さを感じさせるという、ある意味では離れ業を成し遂げた人物造形と、彼らの織りなす空疎なドラマ。「センチメンタル・アブストラクト」*1とか「アポカリプス」*2とか、見事にダサい作中の固有名詞。
単純な話、生理的に無理。
評価はD。

ニュートンの林檎 上 (集英社文庫)

ニュートンの林檎 上 (集英社文庫)

*1:映画監督である主人公の、若者と外国人に支持されたらしい映画のタイトル。

*2:ヒロインの祖父が書いた、壮大な哲学が展開されているらしい三千枚の小説のタイトル。