野沢尚『深紅』講談社文庫

ネタバレ注意。
家族を鏖殺された少女が成長し、自分と同年の犯人の娘と出逢って…というお話、詳しくは書誌データを。
前半は確かにリーダビリティがあって、緊迫感のままにぐいぐい読ませる。だけどやっぱり、後半ダレるんだよな…。チャレンジングな導入部の題材、それによって導かれるテーマが、後半とその過程において消化されたとは思えない。解説はそのことについていろいろ擁護してもいるようだが、俺には竜頭蛇尾の印象がどうしても拭えなかった。
奏子の女子大生生活にリアリティがない*1のはまあおいとくにしても、未歩の共依存的な関係性とか、そこから殺人計画に至る過程はもっと踏み込んで濃密に書いてほしかったように思う。「四時間」の描写や都筑の手記なんかは、結局解決されない伏線めかした不合理まで含んで描き込んであるのに。
かようにバランスにやや不満はあれど、読ませる力のある小説ではありました。
評価はB−。

深紅 (講談社文庫)

深紅 (講談社文庫)

*1:でも拓巳くんはいけすかないところがありながらも好人物でよかった。