花村萬月『汀にて 王国記3』文春文庫

ネタバレ注意。
シリーズ第三作、持ってるのは最後。
教子と赤羽に視点を置いた短編が二編。「汀にて」は朧と教子が五島列島を旅して、隠れ切支丹墓地でセックスする話。「月の光」は赤羽が宇川の驚異的なウザさに辟易してたらヤンキーにボコられて、赤ん坊の脳天(「顋門」で「ひよめき」らしい)を圧迫する話。後者、なんのこっちゃ。
内容がないと思われるのは前作と同傾向。今回特に表題作なんかは会話文の比重も多く、この作家の最大の特長であろう、軽くて美しく、爽やかに流れる文章を堪能する場面も少ないのだが、それでもセンテンスに煌きは散見される。

 正門は閉まっている。この時間、すべての出入り口は閉ざされているはずだ。農場裏の塀を乗り越えて外にでるのがいちばん手っ取り早いと朧が呟いた。強く頷きかえした。スラックスを穿こう。涙は綺麗に消えていて、なんだか私はとても凛々しい。
(「汀にて」、43p)

テーマとか思想とか、難しいこと考えなくても、こういう爽やかな文章を拾って読んでても十分愉しくはあるだろう。
評価はC+。

汀にて―王国記〈3〉 (文春文庫)

汀にて―王国記〈3〉 (文春文庫)