RADWIMPS 『絶体絶命』

6th。
タイトルも、ジャケットの印象も、先行の「DADA」「狭心症」を聴いた感じでも、もっとザラついてヒリついて、切迫感のあるアルバムを想像していたのですが。
でも実際聴いてみての印象は、すごくフラットで、風通しがよくて、走ってるアルバムでした。『アルトコロニーの定理』みたいに、気付いたら結局「謎謎」の再生回数だけ突出してた、みたいなことはなく、アルバム通して、繰り返し聴いています。
全編通しては、今までのように「君と僕」にフォーカスした世界観ではなく、より多彩で、広がりのあるものになっていますが、それをどこまで「深い」ものにできるかはまだ見えてこないというのが正直なところ。一番凄みを感じるのは「狭心症」とラスト「救世主」ですが、前者は結局暴いて晒しただけだし、後者は結局「君と僕」で、「バグッバイ」とかに比べるとむしろ分かりやすい。
ただやはりソングライティングにおいては天才なので、各フレーズの切れ味は担保されているし、なによりバンドとしての楽曲の表現力に感じ入るところが大きいです。特にギター、今までの基調だったリフレイン/ループだけでなく、今作ははもっと暴れて/泣いていて、涼やかな楽曲においても暴力的に聞える瞬間があってかっこよかったです。
以下、特に各楽曲について。
2.透明人間18号
 浮遊感と疾走感を兼ね備えた、ポップ・ロック・ナンバー。「DADA」から綺麗な対照を描いている。
 詞の寓意も丁寧に織り込まれていて、局面での転調も鮮やか(《僕にもなれるかな》からの展開がツボ)。名曲です。
3.君と羊と青
 印象的なリフで攻める、青春疾走系ロック・ナンバー。
 全然「大した曲」の顔をしていないのだけど、詞のメロディへの乗せ方が天才的です。あと「Wooooo」がかっこいいです。こういう曲をポロっと作ってこの辺に転がしておけるのが素晴らしい。
7.グラウンドゼロ
 「狭心症」からこの曲への流れが、個人的にはこのアルバムのハイライト。
 「世界」というものを徹底的に暴いて晒し、否定して逃避して放り投げて、それでもその後の「グラウンドゼロ」に灯された、異様なほどにポジティブで、力強いメッセージ。

どれだけ後ろ向きに 歩いてみても未来に
向かってってしまうんだ 希望を持たされてしまうんだ
手渡されたそいつをただ 投げ捨ててみたところでまた
空になったその手に次の 未来渡されてしまうんだから

 夜道を歩きながら聴いていて、ふと号泣しましたね、ええ。
 真に才能のある表現者が、意識に関わらず、現実を言い当ててしまう、その深奥を衝いてしまう、奇跡のような感動がこの二曲にあります。
 一切の無駄がない楽曲、サビのカタルシスとか、マジハンパない。
8.π
 ジャジィなピアノ、フリーキィなギター、愛らしいメロディ。ハイライトの後で存在感を失わない佳曲。
 やっぱ速い曲だと、言葉とメロディの絡みに天才性が分かりやすい。
9.G行為
 いや、うん、悪くないよw
11.ものもらい
 アルバム中最もロマンティックなミディアム・ナンバー。色恋ネタ封印してたのに、唐突にこういう曲出てくるから困る(何が)。

そうだ 一つが二つになったんだ この世に落とされるその前に
一瞬前に だから 不時着後すぐ会えたの

二度目の離ればなれも きっとすぐまた出会えるよ

 しかしロマンティックバカ(褒めてます)。浮遊感に心地いいままに、酔うぜ。
12.携帯電話
 こうなると、完全なクッションだな…。アルバムの世界観についていけてない感じ。
 でも、ストリングスのアレンジは効いてます。
14.救世主

君がいないと ここにいないと 何もないんだよ
そう 君は今日も この世界を救ったんだよ
僕を消さないで 離さないで 繋いどいてよ
そう 君は生きた 今日も生きた
どうもありがとう

「君と僕」の歌、君こそが世界だといういつもの歌だけど、それがこうしてアルバムのラストで、そのアルバムに相応しいスケール感を発揮できているのは神秘的ですらあることだね。
「君と僕」なんだけど、依存関係というよりは、他者に対する「全肯定」が前面にでていて、それが美しいからだと思う。この曲はその意味で、シンプルで分かりやすく、やっぱりひたすら美しいバラード。

…という、事前の予想は覆されつつも、期待は十全に満たされた14曲。
もっともっと、広く聴かれるべき音楽。

絶体絶命(初回生産限定仕様)

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