R.バックマン 実は S.キング/真野明裕(訳)『痩せゆく男』文春文庫

ネタバレ注意。
表記は表紙に従って。キングの創作意欲が版元からの年一作縛りに耐えかねて、別名義で書いてベストセラーになっちゃってバレたというホラー小説です。
ジプシーの老婆を轢き殺した主人公が、被害者の一族の長老から呪われ、ひたすら痩せていくという話。ホラーとしてのプロットは単純だけど、かなりの読み応えを実現しています。
最初はそのまま、呪いの所在が見えてくる恐怖。それを追っていく過程で、事件に関わって(主人公の不起訴を手助けして)、結果「呪われた」人々の存在が見えてくる。そのグロテスクな描写を経て、ジプシーの一族を追い詰める追跡ミステリ風味となり、最後はいかにもアメリカ的な家族悲劇に帰着する。物語の、あるいは恐怖の位相を変化させながら引っ張る手腕は、さすが稀代のストーリィテラーと思いました。中盤まではやや退屈ですが、主人公の友人でマフィアの「ジネリ」というキャラが出て来て以降はイッキ読みです。これぞピカレスク・ヒーローなかっこよさ。
ところどころのユーモアにも吹きました。《パンツ一つで異議を申し立てる》(119p)って言い回しとか、《安ワインと、今にも出そうなへどのにおいがした。かなりちょくちょくへどを吐くような類いの男に見えた。》(391p)とか。なんだよ、「かなりちょくちょくへどを吐くような類いの男」ってw
評価はC+。

痩せゆく男 (文春文庫)

痩せゆく男 (文春文庫)