小川洋子『まぶた』新潮文庫

ネタバレ一応注意。
短編集。いつも通りの美点は、端正な文章とオリジナルな浪漫性。惹き込まれました。
多分こっちのが後だけど、表題作は『ホテル・アイリス』、「匂いの収集」は『凍りついた香り』と、他の長編との類似性を感じさせる。あんま数読んでないから分からないだけで、他のもそうなのかもしれない。でもテーマ性の成就はさすが長編に軍配が上がると思った。物語の力というよりは、不思議な感じに流れてしまうよね(短編と長編、当たり前の性質の違いではあるが)。
そんな中一番よかったのは、最後におかれた「リンデンバウム通りの双子」。孤独や他者との孤絶、あるいは不可知性。そうしたものが寂寥感として通底する、一冊の本としての作品世界にあって、孤独を分け合う老いた双子の兄弟の情景、「おぶる」という肉体的接触を通じてそれに積極的に関与しようとする主人公の想い、そこに通じ合うものが、心をあたためてくれるのを感じました。
…あと、別に書かんでもいいけど表紙がよくないね。作品の雰囲気をまったく伝えてないと思うな。
評価はB。

まぶた (新潮文庫)

まぶた (新潮文庫)