五條瑛『夢の中の魚』双葉文庫

ネタバレ一応注意。
中身のない憂国にしろ、お寒いホモ要素にしろ、この作家の手札はもうほとんどが既知のものなので、平静な気持で読み進めることができました。
この本はこれまでのものと比べて、ストーリィが骨格の手応えに乏しく、なんかのらりくらりとした印象があります。外伝、スピンアウト、あるいは前座の類なのでしょうか。他をまったく憶えていないのでよく判らないのですけど。
気に入らないのが文章。一見なめらかそうに見えて、実はハードルと共にクオリティの低い、散漫な文章です。作中映画、「ガイラ」とやらの描写…「印象的」だのなんだの…にも笑ったけど、ワーストは以下のあたり。

 あの少年と少女は、日本の典型的な高校生だ。無知で身勝手で、政治にも社会にもまるで関心がないが、それもこの時代にこの国に生まれた者ゆえの幸せな特権なのだろう。だいたい、幸福とは身勝手で手前味噌なもので、それを享受しているからといって、責める資格は誰にもない。洪が生まれ育った国にはなかった特権――それがここにはある。
(128p)

勝手に言っててくれ、という感じだけど、そもそも「手前味噌」の意味が分からない…主体が外人だからしょうがないかなw
評価はC。

夢の中の魚 (双葉文庫)

夢の中の魚 (双葉文庫)