ネタバレ一応注意。
うん、これはいい小説でした。処分対象銘柄の中では久々のヒット。
160p程度の小品ですが、そこに湛えられたものは驚くほど豊かです。落ち着いて、でも情感に満ちた文章はそのまま人物造形にも繋がり、この作家得意のロード・ノヴェルとしての妙味もそれを引き立て。また「ファンタジー」という謎の存在が、物語に愛嬌と象徴性を付加している。終盤の怒涛の展開も、単なる悲劇に終わらない、深い余韻を残す見事な筆です。
気に入ったセンテンスをメモ。
「最初は医者になろうなんて、偽善なのかなと悩んだりしたけど、でも偽善を恐れていたら? なにもできないですよね、誰に対しても」
「あのさ、偽善と同情は違うんだよ」片桐が言った。
「同情が嫌なのは、てめえの立っている場から一歩も動かないですることだからだろ。でも、偽善はさあ、動いた結果として偽善になっちゃったんなら、いいんじゃないの? しょうがないよ。そのとばっちりは自分に来るわけだし」
(65p)
…なんか、ちょっと舞城みたいだなw
でも、片桐はせつなくてよかったよ。
評価はB+。
- 作者: 絲山秋子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/12/22
- メディア: 文庫
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