澁澤龍彦『黒魔術の手帖』文春文庫

ネタバレ特になし。
中世の文献や故事を中心に、黒魔術や悪魔崇拝錬金術や秘密結社について紹介・論説した本。
人物やネタとして中心的なのは、パラケルススとかジル・ド・レエとか。特に注釈なんかもなくて、情報的には割と不親切な構成でもあり、通り一遍の記述と感じられる部分もある。ただ筆致は蠱惑的でありつつも地に足がついていて、さすが桐生操風情とは格の違う、質の高い読み物になっていると思います。
何か所かクスリとさせられたところがあって。ミもフタもないところでは44pの絵なんだけど。何か所か引用します。まずはアルベルツスの引用。呪物としての金属を紹介するなかで、磁石の効能の記述。

「磁石――もし男がその妻の貞操を知りたいと思ったら、鉄色をした磁石と呼ばれる石をとり、これを妻の頭の下に置くがよい。もし彼女が貞潔ならば、良人を抱きしめるだろう。もしその反対ならば、彼女はただちにベッドの外へ飛び出すだろう」
(159p)

あとはポルタって人の「自然魔法」に関する記述。

「(前略)たとえば、種馬と交尾をしたばかりの牝馬の、毒素をふくんだ分泌物を取って、これを新しいランプのなかで燃やせばよい。たちまち、その場にいる人間の顔が馬の顔のように見えてくるに違いない。わたしは実験したことがないから、確言はできないけれど、これは本当のことだと思う」
(165p)

…実験しろよ。嗅いで確かめろよ、それをw
なんでしょうハイパーナチュラルに魅入られた人々の情熱というのは、時に滑稽なものですね。
評価はB−。

黒魔術の手帖 (文春文庫)

黒魔術の手帖 (文春文庫)