吉岡忍『M/世界の、憂鬱な先端』文春文庫

ネタバレ特になし。
宮崎勤」事件と、その後の裁判に関するルポルタージュです。
多分学生時代、犯罪社会学と言うか、逸脱論をやりたいと思っていた時期があって。その頃買ってたもんだと思うんだけども。
イメージが崩れた、と思う。宮崎勤という犯罪者は、「オタク」年代の、そのマイナスイメージの嚆矢と、それが犯罪と結びついた最初の例だという認識でいたのだけど。
歴史的にどう位置づけられるかは別として、この本の詳細な記述を見れば見るほど、そのある意味での「分かりやすさ」(おそらく自分がオタク気質だからだけど)においては、その存在をうまく捕まえられない。手の障害、祖父への愛着と執着、肉体性嫌悪、自身が語る離人的、あるいは多重人格的な自意識、そして何より、「オタク」として語るにはあまりに散漫な、「流行りもの」の集積と、性的な未成熟と忌避反応。そうした要素がそれぞれ離反した主張をして、犯罪者としての彼にうまく輪郭を与えてくれない。陳腐なのであまり使いたくない言葉だけど、「空虚」だ、とても。
この本はそうした「空虚」に対する苦闘の記録であり、またそれ自体も空虚な社会…世紀末…批評を経てなお、その大いなる空虚はその空白を晒している、そんな印象だった。虚しい、だからなんか。
逆に終盤を割かれる、「酒鬼薔薇聖斗」に関してはとても理解できる。彼の狂気や人格破綻にははっきりとした輪郭…拠って立つ「物語」があるから。その中で描かれる、同級生や出身中学の「その後」、特に体育祭のひとコマなんて、ちょっと涙ぐんでしまうぐらいにドラマティックだけど、そういうものを求める俺はきっとこういう読み物に向いてないんだろうな、とも思ったり。
でもそんな「物語」も、その前までに描かれた「M」の、その物語性の欠如を、その大いなる空白を引き立てるもののようにも感じられ。この空白はそして、永遠に空白のままなのですよね。そう考えるとなんだろう、虚しいという言葉しか出てこないのだけど。
評価はC+。

M/世界の、憂鬱な先端 (文春文庫)

M/世界の、憂鬱な先端 (文春文庫)