犬式 a.k.a. Dogggystyle 『犬式紀 2002-2008』

ベスト・アルバム
犬式は活動停止を発表しています。そこでドロップされたベスト・アルバム、普通ならノスタルジィと共に語られる作品なのでしょう。
しかし僕は不思議と、この作品にそういう要素を欠片も感じないのですよ。まったく不思議なことに。
ここに刻まれた犬式の「歴史」は、彼らが作中たとえば「バビロン」と呼ぶような、巨大なシステム、過酷な現実との闘争の歴史です。僕は彼らのレゲエが、日本で最も「レベル・ミュージック」の本質に近づいた表現だったと思っていますが、それは作中、未だ血を流し続けているような生々しさと鮮烈さで僕を鼓舞してくれます。こうした表現を完成させた、と言うかむしろ、こういう表現をしか成し得なかった音楽家が、雌伏の時にあっても、牙を研ぎ続けることを止められるわけがない、という確信を抱かせるに十分な、これはラディカルかつプリミティブなロック・クロニクルです。

翼を無くした鳥は今夜 くじら山の上で舞い踊る
月が照らし出す影はまるで イーハトーブの不死鳥のように
空気の底から 真っ白な輝きを見つけた
月は語りかける 忘れた笑顔は取り戻せそうか?
(「月光に踊る」)

プリミティブな情動喚起と、モダンな音楽的雑食性を兼ね備え、オリジナル・レゲエへのリスペクトと、日本独自のルーツ・ミュージックとしての再解釈を同時に表現した、稀有なロックンロール・バンド。彼らの強靭なビートと、三宅洋平の言霊が、またその「叛逆の唄」を高らかに響かせる日まで、しばし静かに。

人生はまるで夢ではなく 人生はまさに夢そのもの
(「Life is Beatfull」)

犬式紀 2002-2008

犬式紀 2002-2008