望月諒子『神の手』集英社文庫

ネタバレ注意。
なんだかまったく聞いたことのない作家さんですが、このデビュー作は電子出版されていたらしいです。それを文庫に落としたってことか…いろいろ大変だなどこも。立て続けに三作リリースされていて、でもその後をまったく聞かないってのは、まああれだ、そういうことだな。でもなんで三作とも持ってるの? 俺は。
で、さもあらん、という感じのデキでございます。文章は生硬だし、視点もぎこちなくて落ち着かない。作家志望の女性と、その狂気を中心として回転していくストーリーは折原一みたい。でも別に本格ではないし、作品に漂う厭な風味だけが似てしまっている。あっちがおっさんならこっちは「おばさんの小説」というイメージの、華のない小説だ。
この題材であれば、中心として立つべき恭子というキャラクタには相当の存在感が要求されるが、単純に筆力の不足からそれが絶望的に欠けている。特に殺人に至る衝動の回路はまったく意味不明だ。小説に対する妄執の描写は、この作品の成り立ちとも照応していて悪くなかっただけに、探偵キャラを絡ませるためだけの完全な蛇足と感じられてしまった。
この不条理を「凄み」として描出するのは相当の難事で、新人に限らず高すぎる要求だとは思う。でもせめて、たいして魅力を感じない作中作のセンテンスを、たびたび引用するような慎みのない態度は控えてほしい。その程度の自己批評は欲しいところです。そうした点に関して言えば、この間読んだ『四日間の奇蹟』とやらもそうだったけど、「書かない」ことによって伝えるということが「書く」ことの何倍も難しい、という事実とその美徳が、こうした新人さんには不足しているのだろうな、とも思います。余計な描写やディテールが、あまりにも多すぎると思う。この小説は半分で書けるよ。
評価はC−。

神の手 (集英社文庫)

神の手 (集英社文庫)