黒崎緑『柩の花嫁 聖なる血の城』講談社文庫

ネタバレ注意。
ということでここからはまた雑多に消化していきます。
フランスのシャトーでの殺人事件がメイン。「トラベル」「恋愛」「本格」の三つの「ミステリ」要素のハイブリッドだが、まあ及第点なのは一つめだけだね。警察がきちんと科学的に捜査・検証すればあらゆるトリックが無に帰すだろう「本格」としてのクオリティも問題だが、一番酷いのは二つめ、「恋愛」。平板な登場人物たちが、納得いたしかねる心理描写を経て次々と互いに惚れていくさまは、なんだか安っぽい不条理劇のようだ。そうした中に、事件の核心を成す一つの「恋」を紛れ込ませていて、トリックとも言えない叙述的な作為がはたらいているんだけど、こんなもん一瞬で分かるだろう。意外でもなんでもなく、イラっときただけだったよ。
事件に関わるものでも、あるいはそうでないものでも、心理・行動描写に首を傾げることが多かったし、各章の最初にいちいち行を割く情景描写も野暮ったい。こういう風に長いと、読了しても釈然としない思いばかりが残ります。こないだ読んだ『ワイングラスは殺意に満ちて』のが遥かによかったな。
まあTGVで辿り着くフランスの古城とか、そこでの結婚式とか、ワインの蘊蓄とか、あとホモとか(言っちゃった)、女性読者に向けて一所懸命マーケティングした小説なのでしょうね。どっちかにしろよ、と思うこれまた野暮ったいタイトルからして、それゆえの葛藤が見て取れるように思います。
評価はC−。