島田荘司『摩天楼の怪人』東京創元社

ネタバレ一応注意。
なーるほど、という感じ。
(島荘の近作には珍しく)非常に評判の良い作品だったので、さぞかしパワフルな大技物理トリック炸裂かと期待していたのですが、あにはからんや。期待はいい意味で裏切られたのでした。
オペラ座の怪人」へのオマージュとしてのスウィートなロマンティシズム。ニューヨークの都市開発、摩天楼建設という未曽有のテクノロジーの進展の狭間に潜む奇想と、盲点を突いたトリック。その過程においては、特に発展途上段階でのニューヨークという街、ブロードウェイの虚虚実実とそこに住まう人々の生活までも、「都市小説」として、また違った意味でロマンティックに活写されています。もう一面において「島荘らしい」ロマンティシズムと詩情が、(珍しく)美しく結実した、完成度の高いプロットを誇る名品と言えるでしょう。
占星術』『斜め屋敷』ほどのインパクトはないとはいえ、小説としての面白さ、美しさでは最高作かもしれませんね。
評価はB+。

摩天楼の怪人 (創元クライム・クラブ)

摩天楼の怪人 (創元クライム・クラブ)