古野まほろ『天帝のはしたなき果実』講談社ノベルス

ネタバレ一応注意。
もう35回にもなるのか。メフィスト賞受賞作は、饒舌と衒学の伽藍が史上に屹立する、異形の青春ミステリ。
矢野龍王とかのクソそのもののような有象無象と、こうしたトガった才能が紙一重で混在するのがやはりこの賞の混沌の魅力である。振り返ってみれば今までこうした作風がいなかったことが不思議なくらいだが、品のない『匣の中の失楽』とでもいおうか、イメージ・シンボルの乱舞、エキセントリック…というか無駄に立ったキャラクタ造型、SF的な大風呂敷、偏執的に自意識過剰なレトリック…そうした過剰が、時に本格ミステリという小説形式を芸術的に飾り立てる例。新世代の奇書。
ここまでやってくれれば、その過剰は質を問わずに魅力的だということ。イッキ読みが推奨される。中断を置くとリズムを取り戻すのに時間がかかるから。推理合戦のシーンは萌え倒したし、真相も許容範囲内の妄想。ロジックやペダントリーの演出・ガジェットの選定の細かい部分のツッコミは置くとして、こういうことを臆面なく、そしてそれなりに完成させる才能というのは貴重だから、期待しています。
あと、なんたってその過剰にばかり目がいきがちだし、実際最も堪能したのはその部分だが、青春(ブラバン)小説としてオーソドックスな輝きがあると思う。それも悪くなかった。
評価はB+。

天帝のはしたなき果実 (講談社ノベルス)

天帝のはしたなき果実 (講談社ノベルス)