石持浅海『水の迷宮』光文社文庫

ネタバレ注意。
判断に迷うな、ってのはこの人の作品に漂う「痛々しい純真」の話。『月の扉』や『扉は閉ざされたまま』、『セリヌンティウスの舟』あたりでは、ある種の狂気として、登場人物の純真を読むことができたのですが、この作品ではイタすぎる。メルヘンじみたラストなんて独善以外のなにものでもなく、これを狂気としての純真を狙って書いたとはとても思えない。犯人に対する探偵の説教とか、ワトソン目線の探偵の描写*1とか、素でちょっと寒いんだと思った。過去作品に対する認識を改めなければいけないのかもしれない。
脅迫事件の展開は面白いし、物証の処理方法などミステリとして鮮やかな手さばきが見えるので、「水の迷宮」にまつわる小説的なイタイタしさで損をしていると思う。こういうのを「良い話」として読める人がいるのか知らないが、俺は無理だわ。
んでやたらキャラクタに語らせたいのかな、それに引っ張られてロジックも結局「語り」になってしまっているのが惜しまれる。
評価はC−。

水の迷宮 (光文社文庫)

水の迷宮 (光文社文庫)

*1:《というか、この男が自分を裏切るのは、世界が終わる日だと思っている。》(281p)だって。