宇月原晴明『天王船』中公文庫

ネタバレ一応注意。
長編『黎明に叛くもの』ノベルス版収録短編の再編集文庫版だそうな。
この短編集が初読。もともと興味はあって、文庫は買って積読にしていた作家です。戦国絵巻に独特のオカルティックな伝奇要素を加えた、オリジナルな歴史小説。史実には忠実だし(「架空戦記ではない」という程度の意味ですが)、文体は端整ですが、全体としての印象はとても蠱惑的。独特の黒く濡れたような香気があって、なかなか魅かれました。奇想にもカタルシスがあるし、歴史小説(と云うか時代小説)に苦手意識のある俺ですが、長編を読もうと思いました。てか、『信長 あるいは戴冠せるアンドロギュヌス』を今読んでいます。
ベストはマルコ・ポーロを主人公に、蒙古統治下における謎の「宗教」と、イスラム暗殺教団秘蔵の殺人機械というある意味トンデモにおどろおどろしい奇想を美しく融合させた「波山の街」。
作品の評価はB。

天王船 (中公文庫)

天王船 (中公文庫)