安井俊夫『犯行現場の作り方』メディアファクトリー

ネタバレ特になし。
一級建築士である著者が、本格ミステリの世界に存在する数々の奇矯な建築物を、図面に起こし、あるいは建築費を試算し、それにツッコむ、というありそでなかった読み物です。
「十角館」「長い家」「斜め屋敷」とツボをしっかり押さえ、『玄い女神』などでは建築探偵シリーズだけに正統派建築史の薀蓄が楽しめるなど、ミステリファンなら読んで損はないと思います。著者もまた基本的にミステリの「ファン」なので、無粋なツッコミに興が醒めることもありません。せいぜいが「この家…トイレないんですけど」ぐらいのもんです。

これはすごい! 何がすごいって、そんなに大金がかかっていると思わせない造りがただ者ではないでしょう。普通これほどの費用をかけて造られた家なら、絢爛豪華といいましょうか、金襴緞子といいましょうか、とにかくキラキラのピカピカにしたくなります。それなのに、8の字屋敷にはそんなところがまったくありません。それどころかトイレと洗面が一緒になった風呂につかり、部屋の鍵はなんとなく心許ないという、ビジネスホテルの匂いさえ感じさせる大邸宅に仕上がっているのです。
(47-48P)

…ってあたりも、森博嗣のエッセィにカブれてるみたいでなんだか微笑ましいじゃないですか。
作品の評価はB。

犯行現場の作り方

犯行現場の作り方