伊坂幸太郎『AX アックス』角川文庫

ネタバレ注意。

足を洗いたい殺し屋「兜」の、仕事と家庭での日々を描く連作長編。

リーダビリティとユーモアに心地よく身を任せつつ、克己の理想的息子ぶりや、鮮烈なシーン*1に目を見張りながら、やがて行き当たる哀しみの風景に強く胸を打たれる。

しかしその後、さらに展開する物語においては、ただそのもののために生きていくことができる、愛すべきものを見出すことのできた人生への全肯定が謳われて、感動的だ。避け得ない悲しみに行き着くとしても、それまでにあった幸福と希望は価値を減じない…むしろさらに輝きを増して続いていく。そうした人生賛歌を、この上なく可愛らしく、微笑ましく映し出した、珠玉のラストシーンだった。

なんだ、この小説は殺し屋小説でなく、夫婦小説だったんだな、と。

評価はB。

AX アックス (角川文庫)

AX アックス (角川文庫)

*1:兜vs奈野村で子供のマネキン倒すとこ、いいな…。