ネタバレ注意。
足を洗いたい殺し屋「兜」の、仕事と家庭での日々を描く連作長編。
リーダビリティとユーモアに心地よく身を任せつつ、克己の理想的息子ぶりや、鮮烈なシーン*1に目を見張りながら、やがて行き当たる哀しみの風景に強く胸を打たれる。
しかしその後、さらに展開する物語においては、ただそのもののために生きていくことができる、愛すべきものを見出すことのできた人生への全肯定が謳われて、感動的だ。避け得ない悲しみに行き着くとしても、それまでにあった幸福と希望は価値を減じない…むしろさらに輝きを増して続いていく。そうした人生賛歌を、この上なく可愛らしく、微笑ましく映し出した、珠玉のラストシーンだった。
なんだ、この小説は殺し屋小説でなく、夫婦小説だったんだな、と。
評価はB。
- 作者:伊坂 幸太郎
- 発売日: 2020/02/21
- メディア: 文庫
*1:兜vs奈野村で子供のマネキン倒すとこ、いいな…。