貫井徳郎『殺人症候群』双葉文庫

ネタバレ注意。
犯罪被害者の復讐代行を行う組織を追う、警視庁秘密組織シリーズ完結の第三長編。
残念ながら、長大な失敗作という印象しか受けなかった。少年法、犯罪被害者の権利、復讐の是非、臓器移植の倫理…いずれも軽々に取り扱うことのできない重いテーマであるのに、それを繋ぐのがこのご都合主義のプロット、小手先の叙述トリック*1、魅力のないキャラクタの右往左往とその大仰な描写では、どうしたって空虚なものにならざるを得ない。
殺人者になる人物たちの極端な行動と、それを追う人物たちの超人的推理力はご都合主義の極みだし、なんでもない思考描写で「念願」「切望」etc.を繰り返す大仰さと、緊張感高まるクライマックスで《紳士服のモデルのように》(637p)なんて腑抜けた形容をする軽率さが同居した文章のクオリティと共に、とても居心地が悪かった。
書店員の方の礼賛解説でもチラリと触れられているが、貫井氏のこのシリーズは過去二作の印象が著しく悪く、この作にもなかなか手が伸びなかったのだけど、あにはからんや、その印象の再認と共に、ヴォリューム倍! 苦痛も倍! という不幸な読書でした。
評価はD。

*1:名字で書かれてた人物とファーストネームで書かれてた人物の同一人物錯誤って…。