貫井徳郎『追憶のかけら』文春文庫

ネタバレ注意。
うだつの上がらない大学講師が、夭逝した作家の手記をめぐる謎に巻き込まれるミステリ。
かなりの分量の作中手記と、その謎をめぐる現代パートが絡む構成が巧みで惹き込まれた。手記の謎が魅力的なので、それそのものではなくその「裏」を探ることがメインになる終盤戦と、そこでの家族小説としてのドラマ性にいまいちテンションが上がらなかったきらいはあり、それ以前までの愉しさが尺度ならもっと評価は上がったな。大部だがリーダビリティは非常に高い。
ちょっとよく分からない部分があって、志水君というキャラはスケープゴートとして非常に有能だと思うけど、剛造さんという存在とそれを中心とした「構図」の中で、志水君は咲都子さんと従兄妹の関係になるわけだけど、それがタブー視されて云々、てママレードボーイ的な話がチラとも出てこない。従兄妹レベルじゃ別に大したことないって判断で出さなかったんだろうか。でもこのファクタで、さらに名スケープゴートになったと思うんだな、志水君。
あとは三流大学講師の悲哀ってネタはやっぱり大好物だった。クワコーほどじゃなかったけどね。
評価はB。

追憶のかけら (文春文庫)

追憶のかけら (文春文庫)