藤原伊織『シリウスの道』文春文庫

ネタバレ一応注意。
広告代理店を舞台にした「ビジネス・ハードボイルド」だそうな。
「ビジネス・ハードボイルド」なんて惹句に、反射的にしゃらくせえ!と思ってしまいますが。それはそれとしてまあ、電通出身だけあって、広告業界のお仕事小説としてはある程度の知見はあり。
しかしそれを凌駕して印象が悪いのは、上下巻の大部を支配するベタさとご都合主義。反骨精神旺盛な主人公の造形と暗い過去、それを持て囃す女たち、リスペクトを捧げる有能な部下たち、プロジェクトX世代への媚態としての中島みゆきというガジェット、ビジネス小説に類型的な種々の人々、いずれもいかにも造りものめいて、物語への絡ませ方もダイナミズムに乏しい。特に明子ってキャラは寒々しさが痛々しさにまで至るのを感じた。
こないだ読んだ作品と好かない点は似ているけど、こっちはより印象が悪かった。『テロリストのパラソル』にはいい印象しか残ってないんだけど、こんなベタベタな*1作家だったかな…残念。
評価はC。

シリウスの道〈上〉 (文春文庫)

シリウスの道〈上〉 (文春文庫)

シリウスの道〈下〉 (文春文庫)

シリウスの道〈下〉 (文春文庫)

*1:短絡的、という意味でも、作品の粘着質な手触りという意味でも。