M.エンデ/上田真而子・佐藤真理子(訳)『はてしない物語』岩波少年文庫

ネタバレ注意。
家庭内読書会「古典的名作を読もう」企画、第15回課題本。
『モモ』もよかったのでふたたびのエンデ、映画版*1は昔よくテレビでかかってたような気がしますが、ジュブナイル映画なんてまったく観る気のないガキだったため、予備知識まったくなし*2
で、やっぱりいい作品でした。凄く上質なファンタジィ小説です。ファンタジィの王道を行く冒険の世界観が確立していて、そこに散りばめられる様々なガジェットもまた、既知のものを安定性として取り込みつつ、独自のニュアンスと解釈が加えられている。キャラクタも立っていて、特にメインの二人、アトレーユの勇敢さと聡明さ、バスチアンの危うさ、いずれもよく描けています。
そして物語としての大きな特徴であるメタフィクショナルな構成、そこに託されたメッセージに、そうした上質さが何よりの説得力を与えていると思うのです。本を読むという行為、そのことで読者である自分自身に起きうる変化、その礼賛といくばくかの警句が、力強く宣言されています。「物語の力」を表現した小説ですから、なによりそれが託される物語に「力」がなければ、それは空疎な自己言及に止まってしまっていたでしょう。
「それはまた、別の話」なんてクリシェは、頻出している間もなかなかに小粋ですが、ラストに至ってはなにかとても感動的な一言でありました。ただでさえ豊饒な物語、その「余白」において、読者が自由に想像を膨らませ、あるいは二次創作的な創造をも果たしてほしいという、作者の稚気と包容力…物語の「はてしなさ」に、安心して身を委ねられる作品です。
評価はB+。

はてしない物語 (上) (岩波少年文庫 (501))

はてしない物語 (上) (岩波少年文庫 (501))

はてしない物語 (下) (岩波少年文庫 (502))

はてしない物語 (下) (岩波少年文庫 (502))

*1:もちろん『ネバーエンディング・ストーリー』。なんかエンデは不満らしい。

*2:いや、なんか白い巨大生物に乗ってる画は浮かぶ。あれがフッフールだろうか…。