五十嵐均『ヴィオロンのため息の -高原のDデイ-』角川文庫

ネタバレ一応注意。
横溝正史賞作品。作者は夏樹静子のお兄さんだって。
第二次大戦末期の軽井沢、ノルマンディ上陸作戦の機密情報をめぐる謀略に翻弄される、元オランダ大使を父に持つ主人公・敦子と、恋情を結んだ駐日ドイツ軍将校の冒険、そして半世紀を跨ぐロマンスを描く。
スケールだけは大きいけど、そのスケールに主人公たちが関与する部分が粗雑。スパイ小説としてもミステリとしても、展開が行き当たりばったりで奥行きを欠くと思う。ロマンス部分においても、人物造形や作品世界の構築において著しく瑞々しさを欠き、のめりこむことができない。そもそも彼女と彼が惹かれあうのがいまいち納得できないし、周辺の人たちのあまりにもなリベラル/コスモポリタンぶりも鼻につく。
この人の筆では、老人どうしのカラミは読みたくなかったなあ。この50年後の再会、素敵に描くのはかなりの難事だと思うけど…。
評価はC。

ヴィオロンのため息の―高原のDデイ (角川文庫)

ヴィオロンのため息の―高原のDデイ (角川文庫)