大槻ケンヂ『ステーシー 少女ゾンビ再殺談』角川ホラー文庫

ネタバレ一応注意。
一転、これはいい小説でした。さすがオーケンです。
女子高生年代の少女たちがなぜか突然にゾンビ…「ステーシー」化する世界で、それを次々に殺していくってだけのスプラッタ・ホラーSF。しかしその狂気と血液と体液の饗宴の中に、なにかキラキラと美しいものの存在が確かにみとめられて、それがなんだかとてもせつなくて、素晴らしいと思います。
たとえば真昼の太陽の順光の下、ステーシー化した恋人に向き合う男、チェーンソーの音の合間にふとよぎる追憶。

 僕が部屋の中でニコンF9のレンズを向けると、いつも、詠子はトコトコと窓際に歩いていって、隣接したビルの隙間から少しだけ見える街並みを背景に、元気一杯にピースサインを突き出したものだ。逆光になるから太陽に背を向けるなと僕が叱ると、詠子は「ごめんごめんククク」と笑った。
「ごめんよ、渋さんの背中にはいつも太陽があればいいんだね。そうして詠子の目には、いつも太陽が映っていればいいんだね」
 そう言いながら、次の日もカメラを向けると、詠子はまたトコトコと窓際に駆け寄り、得意気にポーズを取った。ピース!!
(35-36p)

「銃撃」の章、116pあたりのステーシーの語りも、ハッとするほど美しく、せつない。この辺オーケンは気が狂って、口述筆記で書いたらしいよ…すげえ話だ。
ラストとかうまく飲み込めないところもあるけど、「なにか美しいものに触れている」、稀有な感覚をくれるスプラッタ・ホラーSFの傑作と言えるでしょう。
評価はB+。