五十嵐貴久『安政五年の大脱走』幻冬舎文庫

ネタバレ一応注意。
時代劇版「大脱走」。姫を人質に取られ、断崖に取り囲まれた山頂に囚われた侍たちの脱出劇。
なかなか目新しい設定だと思うが、時代モノにした必然性、それゆえのエンタテインメント性はうまく表現されていないように思った。文体もそうだけど、キャラクタもまた現代的で浮薄である。鮫島という、最も古式ゆかしい武骨な武士キャラクタの、その安直な性格付けと役回りが、逆説的にこの小説の「軽さ」を体現していたように思われる。
習字始めたあたりからバレバレだったのは確かだけど、それでもあれだけ一生懸命穴掘りした結果としてのあのオチには脱力したし、「脱出」以降の生存手段に説得力がない。それ以降も、少なくとも桜田門外まで、ある程度井伊の支配は続いたはずで、それからいかに逃げおおせたというのか。まあ本筋から離れたところではあるのだけど、その意味で実在の人物絡めたのは失敗だったのでは。
まあ、エンタテインメントのネタは、節操なく多彩な作家だということは分かりました。
評価はC。

安政五年の大脱走 (幻冬舎文庫)

安政五年の大脱走 (幻冬舎文庫)