大沢在昌『野獣駆けろ』講談社文庫

ネタバレ注意。
大沢「ハードボイルド」は、相変わらずスウィート。中年男性のロマンティシズムをくすぐるキャラ造形と、コジャレめかした会話。それを客観し、カリカチュアとしてしまえば、クスリとしながら楽しくは読める。
主人公の覆面フリーライタは傭兵あがり(!)で、調査の先々で女性をモノにしては、

「あなたのような人は少ないわ。だからすぐにわかる」
「何がわかる」
 皮肉な口調で圭介は問い返した。
「檻に入ったことがない獣よ」
(75p)

だの、

「隠しても駄目よ。私はあなたの正体を知ってる。あなたはインテリすぎる野獣だわ。本能の命ずるままに動くには色々のことを知りすぎているけど、ずっと押し込められているほど優しい本能じゃないのよ」
(119p)

だの言われんの。ベッドの中で。カッコイー(棒読み)。
最初は東京が舞台だけど、やがて山奥の理想郷めいたリゾート施設(?)での活劇がメインになり、いよいよ現実感と「ハード」さは失われていくが、それはそれでいいのだろう。こうした小説じたい、夢幻の理想郷のような存在なのだろうから。
評価はC+。

野獣駆けろ (講談社文庫)

野獣駆けろ (講談社文庫)